『多様性の科学』を読んで

一筋縄ではいかない問題を解決しようとする際には、正しい考え方ばかりでなく「違う」考え方をする人々と協力し合うことが欠かせない。 複雑な物事を考えるときは、一歩後ろに下がって、それまでとは違う新たな視点からものを見る必要がある。
『多様性の科学』第1章 | 画一的集団の「死角」より引用

『多様性の科学』(マシュー・サイド著、ディスカバー・トゥエンティワン)

本書は以前ご紹介した『失敗の科学』を書いた著者による作品です。

これまで「多様性(ダイバーシティ)」という言葉を聞くと、性別や人種、志向などで差別をしないということや、その割合に偏りを持たせず公平にするといった「平等さ」を主軸にして使われるイメージが強くあったのですが、本書で取り扱っている「多様性」の主旨は、「多様性が高まることは、その組織(集団)の生産性や発展性を高めることに寄与する(だから重要)」というものになっています。

この一点だけを取ってみても興味深い一冊でした。

例えば、第二次世界大戦中にドイツ軍が使用していた「エニグマ」という機械が生成する非常に難解な暗号を解読すべく結成されたイギリスのチームは、世界有数の数学者や論理学者を集めて結成されていたものの、なかなか結果を出すことができていませんでした。ところがそこに、比較言語学者や歴史学者、法哲学者に加えクロスワードパズルのコンテストの優勝者(一般人)といった多様なバックグラウンドを持つメンバーを加えたことで多角的な視点を得ることができるようになり、結果的に様々な暗号文の解読を進めることができたという話が載っています。

また 9・11 のテロに関しても、後から見れば様々な予兆となる報告が CIA になされていたことが分かったが、それが活かされなかったのは CIA の組織構成に大きな偏りがあったため、その報告を問題視する視点が生まれなかったことに起因していたという話も興味深い話でした。

これらの例はとても特徴的で世界的にも大きな話でしたが、もっと小さな集団であっても、似た属性の人で構成されている場合はどうしても似たような視点や思考の傾向が生まれてしまい、結果的に全体像をとらえ損ねてしまう(画一集団特有の「死角」が生まれてしまう)という実例も多く紹介されています。

「人口統計学的多様性」と「認知的多様性」

我々はみな、自分自身のものの見方や考え方には無自覚だ。 誰でも一定の枠組みで物事をとらえているが、その枠組みは自分には見えない。
結果、違う視点で物事をとらえている人から学べることがたくさんあるのに、それに気づかずに日々をすごしてしまう。

『多様性の科学』第1章 | 画一的集団の「死角」より引用

もう一つ興味深かったのは「多様性」を「人口統計学的多様性」と「認知的多様性」の2種類に区分して捉えていた点です。

前者の「人口統計学的多様性」は「性別、人種、年齢、信仰などの違い」を指し、冒頭にも触れた「平等さ」の観点で語られる場合はほぼこちらの「人口統計学的多様性」に関する場合が多いと思います。

一方の「認知的多様性」は「ものの見方や考え方の違い」を指しています。また、この点については「(自分自身では)無自覚」なため、その異なる考え方を持った人とのコミュニケーション(対話)を通してでしか気づくことができないと指摘しています。

なので、個人としては「社交性」を高め、組織(集団)としてはコミュニケーションが活性化するよう務め、いわゆる「心理的安全性※」が高い状況を生み出すことが重要であるとも述べています。そのことによりその組織内では「(認知的多様性が加味された)集合知」が生まれ、個の能力だけでは超えられないレベルの結果を生み出すことができるようになるという話でした。

一般的にはそもそも「人口統計学的多様性」が高い場合は「認知的多様性」も高くなる傾向があるとも書かれているのですが、個人としても「自分のものの見方や考え方は、無自覚なフィルターがどうしてもかかってしまっているもの」と意識しておくことはとても重要なことだなと思わされました。

※本書内では心理的安全性の高い組織を醸成するためのコツも多く書かれていますので、その点についても興味があれば一読の価値があると思います。

とはいえ、「船頭多くして船山に上る」にならない?

私が本書を読み進めて行くなかで、少し気になったのはこの点です。

総論的には本書に書かれている内容は「なるほどね」と多くの気づきを得られたのですが、一方で実際に様々な属性の人やものの見方の異なる人が参加している会議を想像すると「発散してまとまらない会議になりそうだな」とも思ってしまいます。多様な視点での意見が出れば出るほど「集合知」が高まることは理屈上は理解できるものの、現実的にはツラいなと。

この問題を解決するためには二つのポイントが重要になるのではと思っています。

まず一つ目は「時間軸を長くとる」ということ。多様な意見を加味した集合知を得るためには「一回や二回程度の議論では不十分」と割り切って、予め通常よりも長いスケジュール設定をしておくこと。

二つ目は、議論を進めるうえで軸となる「本質的なゴール(なぜ?何のために?)に対するコンセンサスをその集団の中で得る」ということだと思っています。議論をスタートする時点では、「本質的なゴール」を主催者の意図で誘導することはせず、ブレインストーミングなどで発散させながら(多角的な視点を加味しつつ)意識合わせを行うことも重要と思います。

ただ、なるべく早いタイミングで一度合意を得、その前提のもとに議論を進める必要があると思います。そのゴールに対する意識が合っていない中でやみくもに議論をしても、それはかみ合わないだけで時間を浪費するだけになってしまうでしょう。また、もしその議論の過程で「前提が間違っていた」となった場合は、そこから仕切り直せば良いことだと思っています。

いずれにしても、時間がタイトだと最短距離を求めてしまうため、結果的に多様性をくみ取る余裕がなくなってしまいます。また、だらだらと意見を吸い上げてばかりでも先に進めなくなってしまうため、そのような状況は避けるべきだと思います。

この方法は、もちろんすべてのケース(プロジェクト)に当てはめるべきではないと思います。本書内にも書かれていましたが「新たな戦略を考えたり、将来を予測したり、あるいはイノベーションを起こしたいケース」においては「多様性の高い集合知」が欠かせないためこのアプローチが望ましいと思われます(逆に「定められた計画の実行を求められるケースでは、リーダーが支配的に推進する形が望ましい」と述べられています)。

「多様性の実現」を考える上では色々と悩ましく感じる点もありますが、やはり単に「多様性が高い組織構成」にするだけでもダメで、「多様性を活かす組織を実現するにはどうすべきか」を多角的に捉え、試行錯誤しながら進めることしか具体的な発展は得られないのだろうなとも考えさせられた一冊でした。

芳和システムデザインが提供できる価値

(文:金尾卓文)

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