『人を動かす』を読んで

本書から、”常に相手の立場に身を置き、相手の立場から物事を考える” という、たった一つのことを学び取っていただければ、成功への第一歩が、すでに踏み出されたことになる。
『人を動かす』(デール・カーネギー著、山口博訳、創元社)より引用

本書は 1936年(昭和11年)に刊行され、いく度か改訂、改訳を重ねながら、今もなお多くの人に読まれているベストセラーだ。(ちなみに 1936年にはベルリン・オリンピックが開催されていたようだ)

著者のデール・カーネギーは企業向けの教育講習を長年にわたり務めており、そのトレーニング教材として作成し続けたテキストをまとめて書籍化したものが本書となるようだ。そのためか、テーマごとに簡潔にまとめられており、とても読み進めやすい形になっている。

大きく「人を動かす三原則」、「人に好かれる六原則」、「人を説得する十二原則」、「人を変える九原則」の4つのパートに分かれており、個々の原則については著名人の行動例のみならず、講習会の参加者の体験談の実例も盛り込んで紹介されているので、「自分だったらどうできるか?」を具体的にイメージしやすい。

根本的に著者が伝えたかったことは、このブログの冒頭で紹介した一文に尽きるのだと思うが、その根底には「心の底から誠実であれ」というメッセージが流れているように感じた。

以降は、多くの学びがある本書の中から気になった2点について少し紹介したいと思う。いずれにしても、読むたびに新しい気づきを得られる本だと思うので、もしまだ読んだことのない方はぜひ一冊お手元に置いておかれることをお勧めする。

真心を込めて感謝する

【人を動かす三原則】 (Fundamental Techniques in Handling People)
1. 批判も非難もしない。苦情も言わない。(Don’t criticize, condemn, or complain. )
2. 率直で、誠実な評価を与える。(Give honest and sincere appreciation.)
3. 強い欲求を起こさせる。(Arouse in the other person an eager want. )

本書の冒頭で説かれている基本原則が上記の「人を動かす三原則」だ。本文を読めば違和感はないのだが、「2」の「率直で、誠実な評価を与える」 という一文については、少ししっくりこなかったので原文に当たってみた(翻訳がおかしいと言っているのでは全くなく、著者の意図を個人的にもう少し掘り下げて理解したいという好奇心からきているということはご理解いただきたい)。

どこが気になったかというと「評価を与える」という箇所に引っ掛かりを覚えた。冒頭に触れたように著者は「常に相手の立場に身を置き、相手の立場から物事を考える」ことを強く推奨している。一方で「評価を与える」という行為は(相手に対する)主観に立脚しているような印象を受けたのだ。

そこで原文を見ると「Give honest and sincere appreciation」となっている。翻訳には何も問題はない(意訳をしているわけでもない)。また本文に目を向けると、「相手の良いところを見つけて(気づいて)、それを伝えること」で人の行動が変わったという例がいくつも紹介されている。確かに「相手の良いところを見つける」ことは「評価」だ。

ただ「appreciation」という言葉には、単に「評価」だけでなく「好意的な」や「感謝(する)」といったニュアンスが含まれている(らしい)。さらに「sincere appreciation」で調べると「(~に)心から感謝する」や「誠にありがとうございます」といった例文が多く出てくる。私だけかもしれないが、日本語の「評価」という言葉から受ける印象は、「(価値や能力を)査定する」というトーンが強いように感じる。そこが「率直で、誠実な評価を与える」という一文がすっと入ってこなかった原因かもしれない。

私は日々意識しておきたい言葉はメモにして目につくところに張り出すようにしているのだが、その場合はすっと入ってくる言葉の方がありがたい。なので(あくまでも個人的な理由から)、私のメモでは「2」の箇所は「真心を込めて感謝し、伝える」と書き換えてある。そうできるようにありたいと思っている。

聞き手にまわる

話し上手になりたければ、聞き上手になることだ。興味を持たせるためには、まず、こちらが興味を持たなければならない。
『人を動かす』-「人に好かれる六原則 4.聞き手にまわる」より引用

「人に好かれる六原則」の一つに「聞き手にまわる(Be a good listener. Encourage others to talk about themselves.)」と書かれている。

「コミュニケーションがうまい人は聞き上手!」という言葉は、本書に限らずいろいろな所でも語られていると思う。ただ、この「聞き手にまわる」ことの真意を私は完全に履き違えていたことに気づかされた。

これまでは「自分が話したいのをぐっとこらえて、ひたすら耳を傾け続ける」ということだと思っていた。そうではなく「相手に興味を持ち、そこについて尋ねる(話したくなるように促す)」ことこそが真髄だったようだ。

本文の中では、著者があるパーティで植物学者の方と知り合い、それまで一度も植物学者とは話をしたことが無かったにもかかわらず、ずっと話し込み、挙句に最後には「世にも珍しい話し上手だ」と評されたという話が語られている。

ここで感じたのは「日ごろからいろいろなことに興味を持つクセ」をつけておくことも聞き上手になるためには必要だなということだ。日々、見たことや聞いたことに対して「なんだろう?」、「なんでだろう?」と意識を向けるようにしてみようと思う。

ともあれ、「興味を持たせるためには、まず、こちらが興味を持たなくてはならない」。仕事の中でも、ともすれば自分の意見を伝えることばかりに気を取られがちだが、伝えたい相手が興味を持っていることを見極めることが先決なのかもしれない。

最後に

重ねて言う、本書の原則は、それが心の底から出る場合によって効果を上げる。小手先の社交術を説いているのではない。新しい人生のあり方を述べているのである。
『人を動かす』-「人を変える九原則 6.わずかなことでもほめる」より引用

本書に書かれている原則やその実例などを読むとそんなに難しくなく、当たり前にできそうに思えてしまいそうだが、よくよく考えると非常に難しいものばかりだ。上記の引用にあるような「心の底から」の振る舞いができるかといわれると全く自信がない。

おそらく、「誠実であること」が前提として必要なのだと思う。一足飛びにはできないが、小さなことからで良いので「誠実に向かう(相手の立場に身を置き、相手の立場から物事を考える)」ことができるよう意識して行動してみたいと思う。

いずれにしても、まだ本書を読んだことのない方はぜひご一読をお勧めする。仕事をする上でも活用できる、多くの気づきを得られる一冊だ。

芳和システムデザインが提供できる価値

(文:金尾卓文)

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