『完訳 7つの習慣』を読んで

・私的成功(Private Victory)
 - 第1の習慣:主体的である(Be Proactive)
 - 第2の習慣:終わりを思い描くことから始める(Begin with the End of Mind)
 - 第3の習慣:最優先事項を優先する(Put First Things First)
・公的成功(Public Victory)
 - 第4の習慣:Win-Winを考える(Think Win/Win)
 - 第5の習慣:まず理解に徹し、そして理解される(Seek First to Understand, Then to Be Understood)
 - 第6の習慣:シナジーを創り出す(Synergize)
・再新再生(Renewal)
 - 第7の習慣:刃を研ぐ(Sharpen the Saw)
『完訳 7つの習慣』(スティーブン・R・コヴィー著、フランクリン・コヴィー・ジャパン訳、キングベアー出版)より引用

『7つの習慣』は1989年にアメリカで出版された本で、日本語版もこれまでに何種類も刊行されているので、すでに読まれた方も多いかもしれません。本書『完訳 7つの習慣』は、より分かりやすく理解を深められるよう2013年に訳し直されたものになります。

ここで書かれている7つの習慣は、自立した人格を作り上げる「私的成功(Private Victory)」に関する3つの習慣、その人格を土台として他者との効果的な相互依存を生み出す「公的成功(Public Victory)」に関する3つの習慣、それから全体的なバランスを取り成長サイクルを維持する「再新再生(Renewal)」に関する1つの習慣という構成になっています。

また「私的成功」と「公的成功」については、“私的成功は、公的成功に先立つ” と書かれていて、他者との効果的な関係性を望む前に、まず “自分を律し、自制できる” 人格形成がなされていないと始まらないと述べられています。

正直なところ、私が初めて読んだ時には、はじめの3つ目の習慣の章あたりで挫折しそうになりました。どうも「〇〇すべし」とか「〇〇でなければならない」とか「聖人君子たれ!」と言われているように感じ、「いやいや、そんなんムリやし、そもそもそんな高潔な人格者になりたいとも思ってないし」という感情が込み上げてきて「もう読むのやめようかな」と何度も思いました。

ただ、その気持ちをグッとこらえて読み進めると、ちょうど本書の真ん中あたりで以下の言葉に当たりました。

人間関係を築くときにもっとも大切なのは、あなたが何を言うか、どう行動するかではない。
あなたがどういう人間かということだ。
『完訳 7つの習慣』-第三部 公的成功「相互依存のパラダイム」より引用

要は表面的なテクニックで人間関係を作ろうとしても、遅かれ早かれ相手にはその薄さが伝わり長続きしない。だから「まずは自分の内面に土台を築かなくてはならない。自分の人格を磨かなくてはならない」という意図でした。

この言葉にたどり着く前にも、違う表現ですが同じような意図について書かれていましたが、これはなぜかすっと腹に落ちてきました。

本書の中で頻繁に出てくるキーワードの一つに「パラダイムシフト」があるのですが、これは同じ事柄や事象であっても見方やありかたを変えることで、まったく違う景色が見えてくるというものです。今回は私が意図的に見方を変えたわけではないのですが、この「パラダイムシフト」に近い感覚を得ました。

まぁ、それ以降はすいすい読めたというわけでもないのですが、最後まで読んでみると「何か自分でもできることがありそう。そこから始めてみよう」という気になりました。

かなり長い書籍ですが、まずは時間を確保して一気に読み切ってしまうことをお勧めします。一通り全体像を知った後に、改めて読み始めるとまた違う気づきを得ることができると思います。私の場合は、あれだけ反発の感情を込めながら読んでいた前半の章も読み直すと「どこにそんなに目くじらを立てていたんだろう」と不思議な感じでした。

先に ”私的成功は、公的成功に先立つ” と書かれていると紹介しましたが、これは成熟した人格者にならないと他者との良い関係を築く道に進むことができないというのではなく、少なくとも内省をしつつ外部との関係性に取り組むと「私的成功」の3つの習慣と「公的成功」の3つの習慣が磨かれていくということではないかと思っています。

また、本書で書かれている習慣は自己啓発の要素だけでなく、組織の成長やビジネスにも影響を及ぼすことのできるものとして書かれています。

職場でフラストレーションがたまっていたり、家族や友人などとの人間関係で悩んでいる方は一度読んでみると新しい気づきが得られ、解決に向けて進められる一歩を歩みだせるようになると思います。

さて、ここからはもう少し具体的に本書の内容に触れてみたいと思います。膨大な情報量の中の一部のエッセンスにすぎませんが、伝わる部分があればと思います。

自分の影響の輪の中にある問題にフォーカスする

私たちが直面する問題は、次の三つのどれかである。
・直接的にコントロールできる問題(自分の行動にかかわる問題)
・間接的にコントロールできる問題(他者の行動にかかわる問題)
・コントロールできない問題(過去の出来事や動かせない現実)
『完訳 7つの習慣』-第二部 私的成功「第一の習慣 | 主体的である」より引用

自分の多くある関心事(懸念することから興味のあることまで)のうち、自分でコントロールでき、影響を与えられる事柄を「影響の輪の中」と本書では表現しています。

第一の習慣である「主体的である(Be Proactive)」を体現できている人は、この自分でコントロールできる「影響の輪の中」の事柄に労力と時間を割いて取り組み、結果として影響を与えられる範囲(影響の輪)を押し広げていくようになると述べられています。

問題そのものや問題を構成している要素を、「自分の力で解決できること」と「影響を及ぼす方法を工夫すれば(他者が動き)解決できること」と「どうにもできないこと」の3つに切り分け、このうち「自分の力で解決できること」 に注力して取り組む習慣をつけることがまずは大切であると。

ここには「気持ちの持ち様」といったことも含まれ、感情についても自分でコントロールできる領域とされています。なぜなら、「人間は自分の感情や気分や思考を切り離して考えられる能力(自覚)」を持っていて、「問題を構成している要素に自分の感情が含まれるなら、その感情をどうする必要があるのか?どうなれば問題の解決に近づけるのか?」と客観的に内省できる生き物のため、とのことのようです。

正直、私は愚痴をこぼしたり弱音を吐いたり、まったく違うことをして気持ちを落ち着かせることも感情のコントロールの一部と思っていた節があるのですが、どうやらそれは本質的な(問題解決につながる)コントロールではなかったようです。とはいえ、理屈ではわかってもなかなか難しいですよね。。。

もちろん「影響の輪の中」の事柄は感情面だけではないので、まずは「直接的にコントロールできるもの」を見極め取り組むことを意識しつつ、感情や気持ちもそこに含まれていることも忘れずに小さなことからでも一つ一つ実行してみたいと思っています。

自分のものの見方には限界がある

自分とは違うものの見方、考え方を知ることこそ人間関係がもたらす利点であるのに、その事実に気づかないのだ。同一と一致は違うのである。本当の意味での一致というのは、補い合って一つにまとまることであって、同一になることではない。
『完訳 7つの習慣』-第三部 公的成功「第6の習慣 | シナジーを創り出す」より引用

シナジー(Synergy)を日本語にすると相乗効果になります。ここでは複数の意見について効果的なコミュニケーションが生まれると、(択一ではなく)新しい可能性を創造することができるようになることを指しています。

そのためには「違いを尊重すること」が重要と書かれています。ただ、お互いの意見を尊重して妥協点を見つけるようなコミュニケーション方法ではなく、新しい第三の案を創造できるようなコミュニケーションレベルに行って初めて真の意味でのシナジー(相乗効果)を生み出すとも書かれています。

これも私にとっては新しい視点でした。会議の中でもつい「落としどころを探す」ような発想が頭をもたげがちなのですが、まとめる方向を探す前に「さらに発展させる方向はないだろうか?」という発想で臨むことで想像以上の答えにたどり着く可能性を広げることができることに気づかされました。正直、会議には時間制限があるので、その会議のうちに決めてしまいたい(スケジュール的にも決めてしまわなくてはならない)というシーンが多いと思います。ただ、そういう要素を踏まえつつも、常に新しい可能性を模索する意識を持つ習慣づけができるだけでも一歩進めるような気がしています。

また本書の中では、大学の授業中に起きたシナジーや、ビジネスシーンで発生したシナジーの具体的な例も紹介されています。いずれも興味深い内容でしたので、理解を深めるためにも一度読んでみると良いかと思います。

自分という道具に投資する

「刃を研ぐ」というのは、基本的に四つの側面全ての動機を意味している。人間を形成する四つの側面のすべてを日ごろから鍛え、バランスを考えて磨いていくことである。
『完訳 7つの習慣』-第四部 再新再生「第7の習慣 | 刃を研ぐ」より引用

7つの習慣の最後にあたる「刃を研ぐ(Sharpen the Saw)」は、もしかすると一番日ごろから心がけて取り組みやすい内容かもしれません。

人間を形成する四つの側面とは、”肉体“, “精神“, “知性“, “社会・情緒” になります。それぞれをバランスよく鍛え続けることで「私的成功」と「公的成功」を成長させる基礎力を高めることになると述べられています。

以降は四つの側面のそれぞれについて、推奨されている磨き方をご紹介します。

【肉体的側面】
健康を維持するには運動だけでなく、バランスのとれた食事やしっかりとした睡眠なども大切な要素だと思いますが、ここでは運動面について書かれています。運動を継続することは「第1の習慣:主体的である」を鍛えることにもつながるそうです。運動を習慣にするのはなかなか難しく、ともすればやらない理由を考えてしまいがちですが(雨が降ってるとか、前日に飲みすぎたとか)、そこを振り切って継続できるようになると、自信がつき、主体的な活動につながっていくということでした。

ここで推奨されている運動量としては、「せいぜい週に3時間から6時間程度、体を動かせばよい」と書かれています。理想的なのは自宅でできて、持久力、柔軟性、筋力の3つを伸ばせる運動が良いようです。(ランニングやストレッチ、筋トレをそれぞれ軽くやる感じですね)。

週に3時間の運動時間を確保しようとすると、一日に30分程度(もしくは一日おきに1時間程度)になり、これまで全く運動してこなかった人にとっては、これでもハードルが高そうではありますね。まずは、その時間に固執することなく、短い時間でも体を動かす習慣をつけられることを目指したらよいのではないかと思います。(私もやってみます)

【精神的側面】
精神的側面を磨くことは、生きていくうえで非常に大切な価値観を守り抜こうとする意志を強め「第2の習慣:終わりを思い描くことから始める」につながるそうです。

著者は、毎日聖書を読み、祈り、瞑想することを行っているようですが、自分の価値観の琴線に触れるようなもの、例えば音楽にひたったり、自然の中に身をさらしたりするようなことでも精神的側面を磨くことができるようです。

これについては、すでにそれぞれの方法で行っている人が多そうですね。

【知的側面】
知性を広げるためには、「すぐれた文学を読む習慣を身につける」ことが一番だと書かれています。また、「文章を書く行為も知性の刃を研ぐ効果的な手段」となるようです。

まずは、「一か月に一冊のペースで読書をできるようになるところから始め、徐々に冊数を増やしていく」ように進めてみることが推奨されています。個人的には「すぐれた文学」にこだわる必要はなくて、とにかく本を読むことを習慣化できるようになることから始めたらよいのではないかと思います。

私もこのブログの「ビジネス」カテゴリの記事を書くようになってから、月に一冊程度は本を読んでいるのですが、本の読み方として、気になったセリフや文章を見つけたらノートなどに書き出すようにすることをお勧めします。その「気になった言葉」を書き留めたノートをあとから見返すだけでも、書かれていた内容を思い出せたり、新しい気づきを思いがけず得ることもあるのでお勧めです(余談ですが)。

社会・情緒的側面】
この側面が一番イメージが湧きにくいかもしれません。正直なところ私も掴めているわけではないのですが、「人に奉仕し、人の役に立つ活動を行うことで、心の安定を図る」ことがポイントのようです。

これは、ボランティア活動に参画しましょうということではなく、例えば職場で同僚の手助けをするとか、家庭で掃除や皿洗いを買って出るいった日ごろの生活の中で行えるようなことでも良いようです。

何らかの形で「人に働きかけ、良い影響を与えられる」ことに取り組む姿勢を習慣化することが大切なようでした。

最後に

冒頭にも書いたように、私ははじめこの本を読むのが苦痛でした。ただ最後まで読み切ると、「もう少し自分と正面から向かい合ってみよう」、「向かい合う必要があるな」と思わされました。

この本に書かれていることをすべて実践できる人は想像できないですが、その一端でも掴めるだけで何かが変わりそうな気がしています。

まずは「できそうなこと」や「できるようになりたい」ことを一つ絞って、そこに向けてできることを一歩一歩進めてみたいと思っています。

芳和システムデザインが提供できる価値

(文:金尾卓文)

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