どんなもので囲うと電波が弱くなる?Beacon を使った電波強度実験(~人体編~)

こんにちは。研修生の野村と大野です。前回の続編を任せていただけたので、今回は人の体がどのくらい電波に影響を及ぼすのかを実験していきたいと思います。

今回の実験について

前回の実験ではいろいろな種類の障害物を用意して実験を行いましたが、今回は人を障害物としたときにどの程度電波が減衰するのか測定しました。

先に結論を言ってしまいますと、今回は電波がなかなか安定せず、信頼度の高い結果は得ることができませんでした。

まず行った 1回目の検証データが安定しなかったため、受信時間を長くとる形で 2回目も行い、それぞれの結果から傾向の有無なども考察しました。そのため、記事内でも 2回分の検証結果を載せていきます。

【実験環境】

場所:屋内
仕様モジュール:BLEAD-B Ver.2
出力レベル:-16 (初期出荷値)、+4(設定可能な最大値)
検証に使用した機種:Pixel 3(Android 11)
アプリケーション:nRF Connect for Mobile

【実験内容】

①ポケットに入れる(ズボンの前ポケット・後ろポケット)
②手で握る(片手、両手)
③体の後ろに隠す(頭部・背中・横腕・頭頂)
④直線上に人を並ばせる(50cm間隔で 2人と 3人)
※計測器は人体の正面方向に対して設置しています(「横腕」と「頭頂」は除く)

【検証方法】

・1回目
Beacon を条件に合わせた状態にし、電波を受信する Pixel 3 から 2m 離しました。
nRF Connect for Mobile を使い 10秒間 Beacon の電波を受信し、それぞれの最大値と最小値、平均値を計測しました。

・2回目
1回目の検証方法から電波の受信時間を 3分間に変更しました。受信時間を長くすることで取得データの安定性を図りました。その他の検証方法は 1回目と同じです。

基準値の測定

・1回目
人がいない状態での電波強度を測定しました。

・2回目
人がいない状態での電波強度を測定しました。
お茶のペットボトルに Beacon を貼り付けることで、弱い電波を減衰させ、強い安定した電波のみを飛ばすようにしました。

測定:1回目

出力レベル最小値最大値平均値
-16-77-76-76
4-60-54-57

測定:2回目

出力レベル 最小値最大値平均値
-16-78-75-76
4-57-56-56

最大値、最小値、平均値は RSSI(単位:dBm) です。
測定した基準値を下回るほど、減衰します。

実験① ポケットに入れる

■ ズボンの前ポケット

ズボンの前ポケットに入れています。
計測器は前方向にあるので、物理的に人の身体が遮断している状況にはありませんが、ズボンの中で Beacon が身体に接触していることが影響を及ぼすかもしれないという仮説の元、実施してみました。

測定:1回目

出力レベル 最小値最大値平均値基準値との差分
-16-85-82-83-7
4-59-58-58-1

測定:2回目

出力レベル 最小値最大値平均値基準値との差分
-16-78-76-77-1
4-55-55-551

1回目では -16 のほうが減衰の傾向がありますが、2回目では -16 と +4 の間で減衰の差はあまり出ませんでした。少なくとも今回の実験では、ズボンの中で Beacon が体に接触していても電波の減衰は発生しませんでした。

■ ズボンの後ろポケット

次に、後ろポケットに入れてみました。

測定:1回目

出力レベル 最小値最大値平均値基準値との差分
-16-85-82-83-7
4-66-66-66-9

測定:2回目

出力レベル 最小値最大値平均値基準値との差分
-16-79-78-78-2
4-56-56-560

1回目・2回目ともに -16 と +4 の間で減衰の差はあまり出ませんでした。特に 2回目は基準値との差分がほぼないため、多くの電波は身体の周りを迂回したのかもしれません。

実験② 手で握る

<事前準備>
まずは手のひらに置いた状態で基準値を測定しました。

測定:1回目

出力レベル 最小値最大値平均値
-16-74-73-73
4-62-60-61

測定:2回目

出力レベル 最小値最大値平均値
-16-80-78-78
4-59-58-59

■ 片手で覆う

まず Beacon を片手で握ってみました。

測定:1回目

出力レベル 最小値最大値平均値基準値との差分
-16-84-82-82-9
4-67-65-65-4

測定:2回目

出力レベル 最小値最大値平均値基準値との差分
-16-83-83-83-5
4-62-61-61-2

1回目・2回目ともに、-16 のほうが減衰する傾向がありました。

■ 両手で覆う

次に両手で包み込んでみました。

測定:1回目

出力レベル 最小値最大値平均値基準値との差分
-16-94-91-93-20
4-80-78-79-18

測定:2回目

出力レベル 最小値最大値平均値基準値との差分
-16-97-94-96-18
4-72-71-72-13

全体的に減衰の傾向が見られたため、両手で Beacon を覆うと減衰させるといえそうです。

実験③ 体の後ろに隠す

<事前準備>

紙に Beacon を養生テープで貼り付け、その状態での電波強度を測定しました。
この測定結果を基準値とします。

測定:1回目

出力レベル 最小値最大値平均値
-16-83-78-80
4-60-58-59

測定:2回目

出力レベル 最小値最大値平均値
-16-83-78-80
4-55-52-53

■ 頭部

後頭部に Beacon を配置してみました。

測定:1回目

出力レベル 最小値最大値平均値基準値との差分
-16-80-79-791
4-63-60-62-3

測定:2回目

出力レベル 最小値最大値平均値基準値との差分
-16-80-78-791
4-65-64-64-11

1回目・2回目ともに、+4 のほうが減衰する傾向がありました。

■ 背中

次に背中に張り付けてみました。

測定:1回目

出力レベル 最小値最大値平均値基準値との差分
-16-78-76-773
4-72-67-68-9

測定:2回目

出力レベル 最小値最大値平均値基準値との差分
-16-79-79-791
4-55-55-55-2

これも頭部と同様に 1回目・2回目ともに、+4 のほうが減衰する傾向がありました。

■ 横腕

次に厚みを持たせたらどうなるかと思い、右腕に Beacon を配置し、測定機に対して横向きで測定してみました(左腕を測定機の方向に向けて立っています)。

測定:1回目

出力レベル 最小値最大値平均値基準値との差分
-16-87-81-84-4
4-61-60-60-1

測定:2回目

出力レベル 最小値最大値平均値基準値との差分
-16-79-78-791
4-67-63-65-12

1回目では -16 のほうが減衰する傾向があり、2回目では +4 のほうが減衰する傾向がありました。ただ、今回のデータだけでは何とも言えないので、腕章に Beacon を取り付ける案件などがあれば、その際には再度検証してみたいと思います。

■ 頭頂

体の部位編の最後に、頭の上に Beacon を乗せてイスの上に立ち、イスの下に計測器を配置する形で実験してみました。

測定:1回目

出力レベル 最小値最大値平均値基準値との差分
-16-76-76-764
4-61-58-590

測定:2回目

出力レベル 最小値最大値平均値基準値との差分
-16-85-82-830
4-61-61-61-8

1回目では -16 と +4 で減衰の差はあまりありませんが、2回目では +4 のほうが減衰する傾向がありました。

実験④ 直線上に人を並ばせる

<事前準備>

背中に Beacon をつけた状態で電波強度を測定しました。この測定結果を基準値とします。

測定:1回目

出力レベル 最小値最大値平均値
-16-85-81-83
4-76-55-64

測定:2回目

出力レベル 最小値最大値平均値
-16-84-82-83
4-62-61-61

■ 2人

まず2人並んだ状態で検証しました。

測定:1回目

出力レベル 最小値最大値平均値基準値との差分
-16-88-85-86-3
4-75-61-66-2

測定:2回目

出力レベル 最小値最大値平均値基準値との差分
-16-82-81-821
4-62-61-62-1

1回目・2回目ともに、-16 と +4 で減衰の差はあまり出ませんでした。

■ 3人

次に 3人並んでもらいました。

測定:1回目

出力レベル 最小値最大値平均値基準値との差分
-16-94-88-90-7
4-71-65-67-3

測定:2回目

出力レベル 最小値最大値平均値基準値との差分
-16-78-78-785
4-69-67-68-7

1回目では -16 のほうが減衰する傾向があり、2回目では +4 のほうが減衰する傾向がありました。

まとめ

1回目と2回目の表をまとめてみました。

今回は人体で Beacon を遮り、どの程度電波が減衰するかを計測しました。

実験結果より、1回目と 2回目の実験結果が同様に影響を及ぼす程度の傾向を示す結果は確認できませんでした。すなわち、Beacon と計測器の間を人体が遮ったくらいでは、電波強度に強い影響を与えることはほとんど確認できませんでした。

要因としては 1回目の電波が安定しなかったことが考えられます。実際、2回目よりも 1回目のほうが最大値と最小値の差が大きいことが多かったです。

しかし、2回目は最大値と最小値の差が小さいことが多かったため、1回目よりは安定した状態で値が取れたのではないかと考えられます。また、2回目の結果では、出力レベルが +4 の時のほうが大きく減衰しているように見られます。2回目に多く見られた +4 のほうが減衰する要因として、水分が関係しているかもしれません。

前回の実験では、Beacon をいろんなもので囲んでどの程度減衰するのかを計測しましたが、水や保冷剤などの水分を含んでいるもので Beacon を囲んだ時に +4 のほうが -16 よりも減衰するという結果が出ました。

今回は人でしたが、人も約 60% は水分でできているため、もしかしたら水分が +4 のほうが減衰するという結果に関係しているかもしれません、、!

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